AI VS 教科書が読めない子どもたち  新井紀子著

大規模な調査の結果わかった驚愕の実態として、日本の中高校生の多くは、中学校の教科書の文章を正確に理解できない。と「東ロボくん」プロジェクトの数学者新井紀子氏が描いた書籍である。日本の中高生の多くは、詰め込み教育の成果で英語の単語や世界史の年表、数学の計算などの表層的な知識は豊富だが、中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を正確に理解できていないということが分かった。

 

 これからAIに多くの仕事が代替された社会でどのようなことが起こるのか。

労働市場は深刻な人手不足に陥っているのに、巷間には失業者や最低賃金の仕事を掛け持ちする人が溢れている。

 

 2017年10月、みずほフィナンシャルグループは、ITによる業務効率化で事務作業を減らし、店舗の統廃合を進めて10年間で1万9000人分の業務を削減すると発表した。

大規模な事業見直しを検討している。みずほFGの従業員は現在約6万人。例年2000人規模で採

用。証券系をの除き、転職率は極めて低い。その中、10年間で約2万人分の業務が減る。

 

 10~20年後になくなる職業トップ25(オックスフォード大学の研究チーム予測)

よると、ホワイトカラーと呼ばれてきた事務系の仕事が多いことである。2位は、不動産登記の審査・調査、4位のコンピューターを使ったデータの収集・加工・分析、8位の税務申告代行者、11位の図書館書士の補助員、12位のデータ入力作業員、14位の保険金請求・保険契約代行者、15位の証券会社の一般事務員、16位の受注係、17位の融資担当者、18位の自動車保険鑑定人等がそれにあたる。

 AI社会では、ホワイトカラーが分断されているだけでなく、企業が淘汰される危険も大きいと著者はの述べている。

 

 現在の技術の延長線上にある近未来AIには人間の常識はわからない、文章の意味もわからない、人の気持ちもわからない。表情や声のトーンのデータに「喜怒哀楽」のラベルをつけ、それを教師データとして用いることで、喜怒哀楽に分類することくらいはできるようになるが、それが限界である。よって、AIが新しいアイデアに基づいて自らベンチャー企業を設立することはない。AIができるのは、基本的に生産効率をあげることだけで、新しいサービスを生み出したり問題を解決したりはできない。

 

 そんなことしかできないAIが導入されることでなぜ、経済や労働市場に破壊的な影響を及ぼすのか。ということについて、3点の経済用語を使って説明している。

 1つは、「一物一価」。自由な市場経済において同一の市場に同一時点における同一の商品は同一の価値である」が成り立つという経験則。

 2つめは、「情報の非対称性」。売り手と買い手の間において、売れ手のみに専門知識と情報があって、買い手はそれを知らないというように、双方で情報と知識の共有ができていない状態のことを指す。

 3つめは、「需要と供給が一致してたところで価格は決定される」である。よ

一方、デジタルは、「同時に多数の人々が情報を共有するための仕組み」である。デジタル社会では、買い手と売り手の情報の非対称性が修正されるため、デジタル化される以前の市場に比べ、一物一価が達成される速度が速い。代表な例として、価格ドットコムや楽天などが採用している「最安値」を表示する機能がある。スマートフォンの普及で、消費者の消費行動は変わってきている。スマートフォンで最安値の店を探し、通信販売でその店から購入する。販売店は最安値の店の販売価格に対抗せざるを得なくなっている。よって、一物一価に辿りつく時間が短縮される。店舗を構え、専門知識を持った販売員を雇用する店はたまったものではない。このような現状を「ショールーミング」といわれている。

 

 デジタルによる価格比較と最適化による「一物一価」「需給の一致点での価格決定」達成の影響は、ホテルや航空運賃の値下げ競争がすでにおきている。

 AIは自ら新しいものを生み出すことはしない。単にコストを減らすことはできる。「一物一価」に収斂するまでの時間がどんどん短くなっている。それがAIのよって起こっていると考えられる。

 

 この時代を乗り切れない企業は、破綻したり吸収されたりする前に、人間を過酷に働かせたり、品質管理を疎かにしたりすることでAIに対抗しようとしがちである。当然、職場はブラック化しやすくなり、不祥事が起きやすくなっている。

 

 企業は人手不足で頭を抱えこんでいるのにあ、社会には失業者が溢れている。折角、新しい産業が興っても、その担い手となるAIにはできない仕事ができる人材が不足している。一方、AIで仕事を失った人は、誰にでもできる低賃金の仕事に再就職するか失業するかの二者選択を迫られる。

 その中でも「人間らしい仕事」はAIに代替されることなく、残っていくと考えられる。例を挙げると、汚部屋整理コンサルタント、高学歴高収入女性専門の婚活支援など、不便や困ったことをビジネスにしている。これからの時代に起業するのに有利なのは女性ではないか。

 

 男性よりも女性のほうが困っていることが多く、しかも他者との共感能力が高い。失敗もあるしかし、その時に必要になるのは「読解力」である。仕事を変える際にまず必要になるのは、新しい仕事に素早く慣れるために、これまで自分が読んだことがないようなドキュメントを読みこなすことが必要である。

 

 AI時代に生き残ることができるためには、人間しかできないことを考え、実行に移していくことが生き延びる唯一の道である。

 

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